後続永久歯の歯胚(歯の種)が無い晩期残存乳歯(乳歯が大きくなっても残っているもの)は珍しくなくよく見かけます。
しかしこの取り扱い、とても悩ましいです。
好発する場所は決まっています。
だいたい上の前から2番目の歯か、下の前から5番目の歯です。
2番目の前歯の場合、審美的な問題がある一方、咬み合わせや顎機能にさほど大きな影響を及ぼさないことが多いので、抜ける寸前のギリギリまで使って抜けてしまったら入れ歯などで歯を補います。
一方、5番目の奥歯の場合、状況が異なります。まず前から5番目の乳歯は永久歯と比較して高さがかなり低いです。そのためそこと咬み合う上の歯が挺出(浮き出して)してきます。その結果、前後的に緩やかなスピー彎曲と呼ばれるなだらかな曲線が、急激な曲線になってしまいます。
すると下顎は上顎に対して後ろに下がる現象を生じやすくなってしまいます。そうなると相対的に出っ歯に見えて矯正治療の対象になってしまったり、顎関節症を引き起こすことがあります。
ですから理想的には、下の前から5番目の後続永久歯の無い晩期残存乳歯に関しては咬み合わせが完成する前に抜歯して、大人になるまではその抜いたスペースを保隙装置などで補い、咬み合わせが安定したところでインプラントなどでそのスペースを補うのが理想的だと考えます。
しかしこのような論法で私が下の前から5番目の後続永久歯の無い晩期残存乳歯を早くに抜いてしまっていることはありません。
本人や保護者からしてみると、まだ使える歯を早く抜歯して、大人になってから入れ歯やインプラントを入れるということはいくら説明してもとても受け入れがたい治療法だからです。
だから昔の私は歯科医師の使命感に燃えて一生懸命説明していましたが、結局受け入れられるどころか金儲けに思われてしまい多くの不信感を持たれてしまいました。
このように辛いことが続いたため、歯科医師の職責としてこれではいけないと感じながらも、最近ではさらっと流す程度の説明しかしなくなりました。
ですからこのように下の前から5番目の後続永久歯の無い晩期残存乳歯を持った子供を新たに見るときはいつも心苦しく感じている今日この頃です。