ずいぶん虫歯は進行してしまった子供さんが来られることは、残念ながら当院のように予防歯科を根幹に据えた診療体系を取っているところでもたびたびあります。
その都度、保護者の方に「どうして放っておかれたのですか?」と聞くと、大抵「学校検診で異常の紙をもらわなかったから。」と言われます。
そこで私は「歯というものは子供のうちから定期健診・定期管理をしていかないとなかなか健康を維持できないものなのですよ。」と切り出すと、
「そんなの年2回も学校検診があるからそれで十分ではないのですか?」と言われてしまいます。
するとその都度、「どうしても学校検診では短時間で見にくい姿勢で明るい光もない状態になんるため、診察室で検診を行うのとひかくして精度はかなり落ちてしまうのですよ。ですから学校検診で問題なかったからと言って、それが大丈夫というわけではないのですよ。」と説明する必要に迫られてしまいます。
こういった程度の低い話を聞くと学校歯科保健制度が現在の時代にマッチしていないのではないかと思ってしまいます。
そもそも学校歯科保健制度ができた時は、まだ虫歯の洪水時代で歯がボロボロの子供が当たり前の時代でした。その時代には簡易な検診によって重篤な虫歯の児童をスクリーニングするという大きな意義がありました。
しかしそれから時代は変わり、よほど家庭環境などの問題がない児童が虫歯で歯がボロボロになるなんていうことはなくなりました。
その代わり、不正咬合・歯肉炎・顎関節などの問題が出てくるようになり、検診様式もそれに合わせて変えていってはいるのですが、結局簡易検査でハイリスクをスクリーニングするという体系は変わっていません。
私は学校保健制度が現在の検診主体のものから、健康教育主体に抜本的に切り替わってもらえればな、と願っております。詳細な検診は地域のかかりつけの医療機関に任せればいいのです。ただそこに行ってもらうまでには教育をしっかり行い、その意義を児童や保護者・教職員に理解していただかねばなりません。
そうなると学校歯科医のスキルも求められます。現在の簡易な検診なら歯科医師免許さえ持っていれば誰でもできるはずですが、健康教育となるとプレゼンテーション能力が必要になるため出来ない学校歯科医師もたくさん出てきてしまいます。
文部科学省のためでもなく、歯科医師会のためでもなく、国民がより歯科保健の理解を深めるために現在の学校歯科保健制度、変わっていってもらいたいものです。